【歯科医師勉強・生理学】顎運動・顎反射(2)
今回は前回の続きとして顎運動・顎反射(2)について学んでいきました!
前回の記事をまだよんでいない人は以下のリンクから是非ご覧ください!
utti-memorandum.hatenablog.com
では早速見ていきましょう!
下顎の限界運動について
歯、顎関節、骨、筋肉および靭帯等により、下顎の運動範囲には自ずと限界があり、これを下顎の限界運動という。
また下顎を開閉、左右側方、前後に最大限動かした(限界運動)時の下顎前歯部の運動範囲は菱形の立体の範囲内となる。この立体を菱形柱またはポッセルトの図形という。
下顎頭が前に行くときには1(咬頭嵌合位)から2(切端咬合位)に行き、3(最前方位)まで行く。
下顎頭が後退するときには1(咬頭嵌合位)から5(最後方咬合位)に行き、6(最大蝶番開口位)に行って、4(最大開口位)に行く。
『ポッセルトの図形における矢状断面を構成する各限界運動経路の名称について』
(A)前進(後退)運動路
①の最後方咬合位から上下歯の接触を維持したまま②の咬頭嵌合位や③の切端咬合位を経て再前方咬合位に至る経路のこと。後退時には逆方向
(B)前方開閉口運動路
④の最前方咬合位から開口を始めて⑦の最大開口位に至る経路のこと。
(C)習慣性開閉運動路
②の咬頭嵌合位からの開閉運動路のこと。日常的な運動はこの経路にて行われる。⑤の下顎安静位はこの経路上に位置する。
(D)終末蝶番運動路
①の最後方咬合位から開口を始め、⑥の最大蝶番開口位に至る経路のこと。下顎頭が下顎窩の後方に位置して移動せずに回転のみが行われる経路である。
(E)後方開閉口運動路
⑥の最大蝶番開口位からさらに開口して⑦の最大開口位に到達する経路のこと。下顎頭の前突を伴う。
『ゴシックアーチについて』
下顎限界運動を水平面に投射すると、菱形の側方限界運動路(ゴシックアーチ)となる。
1の最後方咬合位はゴシックアーチの頂点であり、アペックスともいう
1から左または右に進んで⑦や⑧に行く経路を限界側方運動路という。
また2から左または右に進んで⑦や⑧に行く経路を習慣性側方運動路という。
『ポッセルトの図形の臨床上の意義』
・咬合記録や咬合再現の基準となる下顎位や顎運動を評価できること。
・下顎の運動能の診断基準となる。
下顎運動の調節機構について
下顎が咀嚼・嚥下・会話などの目的に応じて巧妙に運動ができる理由として、
口腔あるいは口腔周囲の感覚情報をもとに顎運動は中枢神経や末梢神経により巧妙に調節を受けるため、神経系の働きによって咀嚼筋が収縮するためである。
『下顎の随意運動の中枢機序』
感覚情報などをもとに大脳皮質の高次運動野で形成されたプランが一次運動野からの運動指令となる。この運動指令が下位の運動中枢に伝達されて実行される(咀嚼筋の収縮など)。
これらの際に、小脳は大脳から送られてきた大まかな運動指令を細かく調整して、下位の 運動中枢に伝える役割を担う。
そして食物の摂取によって誘発される口腔の粘膜や歯の触覚・圧覚および顎運動によって咀嚼の各ステージに適合した運動ができるように中枢神経系の各レベルで運動指令がフィードバック制御される。
『顎運動に関わる脳領域』
・大脳皮質咀嚼野は、連続的に電気刺激をすることで顎や舌のリズミカルな運動を誘発する領域であり、主要な領域として運動前野最外側の主咀嚼野や、口腔顔面領域の一次運動野がある。これらの領域は咀嚼の「開始・遂行・終了」や顎運動自体の調節に関与している。
・大脳基底核は、随意運動発現に必要不可欠な領域で、大脳皮質下に存在する神経細胞の集合体である。大脳基底核からは一次運動野へ運動指令を送るので、随意運動の準備、開始、制御など運動プログラム作成において重要で、咀嚼運動の誘発や円滑な遂行に役立つ。
・扁桃体は、味覚や嗅覚の入力を受けるとともに情動に関与する部位であるので情動や摂食行動の発現に重要である。扁桃体には直接的に、あるいは間接的に三叉神経運動核に投射するニューロンがあり、顎運動の制御自体にも関わる。
・脳幹は中脳・橋・延髄からなる。橋・延髄では咀嚼中枢や嚥下中枢、嘔吐中枢が局在している。また大脳皮質や大脳基底核、扁桃体などの高次脳のニューロンが直接/間接的に 接続している。三叉神経運動核に投射するニューロンが存在しており顎運動を制御する。これは顎反射の反射弓を構成しており、咀嚼の中枢性パターンの形成に関わっている。
・小脳は運動制御に重要な役割を担う領域であり、顎顔面口腔領域からも豊富な入力がある。これらの感覚情報が小脳内で処理されて顎運動の調節に関与する。具体的には大脳から送られてきた大まかな運動指令を細かく調整して下位の運動中枢に伝える役割を担う。
顎反射について
顎反射は脳幹反射の一部であり、口腔内外に存在する受容器への刺激によって生じた感覚
情報が中枢において三叉神経運動核に伝達されて、効果器である開閉口筋に不随意性に生
じる定型的な反応である。
これは咀嚼時の急激な出来事に瞬時に対応する。反射効果により閉口反射と開口反射に
大別される。
『三叉神経核群』
三叉神経運動核群は、咀嚼筋の収縮制御は三叉神経運動核の支配であり、顎運動の主たる制
御機構に欠かせないものとなっている。顎口腔顔面領域のほとんどの体性感覚情報は三叉
神経感覚群に入力している。三叉神経感覚群には三叉神経中脳路核、三叉神経主感覚核、
三叉神経脊髄路核がある。三叉神経神経核群への入力の特徴は感覚別であり以下参照。
『下顎張反射』
下顎張反射は下顎が急激に下がることで閉口筋に収縮が誘発される伸張反射のことである。
これの誘発刺激は閉口筋の伸張である。この刺激の受容器は閉口筋内の筋紡錘である。この
受容器からの情報を中枢へ伝える求心性線維には、筋紡錘の一次終末にあるla線維と筋紡
錘の二次終末にあるll群線維がある。これらの求心性線維は脳幹内にある三叉神経中脳路
核を形成しており、求心性線維の入力先は同じ脳幹内にある三叉神経運動核である。
三叉神経運動核からはAαニューロン(α運動ニューロン)が神経の軸索を伸ばして遠心性
神経として脳幹部から出ている。反射の効果としては、運動神経が閉口筋を興奮させるため
閉口筋の収縮の反射が誘導される。
この反射の意義は下顎の位置調整であり、下顎安静位の形成に関与している。
その他の特徴としては単シナプス反射であることである。これにより咬筋の誘発筋電図で
は下顎張反射により10ミリ以内にH波が認められるのである。自己受容性反射でもある。
また、閉口筋の収縮を誘発するのみであり、開口筋に拮抗性抑制を誘発しないので、居眠り
の際は下顎張反射が起こりにくくなるので口が開いてしまう。