【歯科医師勉強・生理学】嚥下(2)について
今回は以前の「嚥下1」の続きで、嚥下についてさらに詳しく学んでいきました。
まだ嚥下1を見ていない方は以下のリンクから先にそちらをご覧ください!
utti-memorandum.hatenablog.com
では早速見ていきましょう!
摂食・嚥下の5期(5期モデル)について
『嚥下・摂食の一連の流れ』
摂食・嚥下は以下の5段階で進むとする考えかたがあり、認知期(先行期)、準備期(咀嚼期)、口腔期、咽頭期、食道期がある。
認知期:食物を認識して口腔内に送り込む時期であり、口腔内にまだ食物は入っていない。
感覚情報を経験、記憶、環境などと照合して摂食の可否判断を行う。
食具を把握して認知した食物を口まで運ぶ過程も含まれる。視覚・嗅覚・聴覚・
触覚等の感覚系、大脳皮質、視床下部(食欲の中枢)、扁桃体(食物摂取の可否
判断に影響)が関与している。
準備期:口腔内で食物を粉砕して食塊を形成する時期で、先行期を経て固形物や液体の食物
を口腔内に取り込んだ後の段階。固形物であれば咀嚼によって唾液と混合して
食塊を形成する(舌と口蓋で食物を押し潰すことも)。食塊は舌背の上で嚥下し易
い量や形にまとめられる。一方で食塊を保持して咽頭への流入を防ぐ。随意運動である。
口腔期:嚥下が開始されて食塊を口腔から咽頭へ移送する時期で、主に舌筋の働きで食塊を口腔から咽頭へ移送する。舌を硬口蓋へ押し付けて後方へ移動させることで口腔内圧を高めることによりこの内圧で食塊を咽頭に押し込む。口腔期までは随意的に
制御可能(随意運動)である。
咽頭期:食塊が咽頭を経由して食道へ移送される時期であり、嚥下反射により食物を飲み
下す(咽頭から食道へ約1秒)。咽頭期は食塊が咽頭に触れて反射的に起こる。
咽頭期からは完全な反射となって、一度開始されると自分の意志で中断できない。
食道期:食塊が食道を通過して胃に達するまでの時期であり、食塊は食道筋のうねるような動き(蠕動運動)により胃まで移送される(5~10秒かかる)。不随意運動である。
嚥下運動について
『嚥下時に見られる運動の種類』
嚥下時に見られる運動には大きく分けて気道の防御のための運動と食塊の移送のための
運動がある。
気道の防御のための運動では鼻咽腔閉鎖・喉頭口閉鎖・声門閉鎖・嚥下時無呼吸があり、
これらの運動や喉頭周辺の構造(梨状陥凹)により気道への食物の進入を阻止する。
鼻咽腔閉鎖(咽頭期):軟口蓋の挙上+上咽頭後壁の前方突出により食塊の鼻腔への進入を阻止して鼻腔を保護する。
喉頭口閉鎖(咽頭期):喉頭の前上方移動に伴って喉頭蓋が反転下降することで食塊の気管への進入を阻止して気管、気管支、肺を保護する。
声門閉鎖(咽頭期)・嚥下時無呼吸(咽頭期):食塊の気管への進入を阻止して気管、気管支、肺を保護する。(喉頭口閉鎖とともに二重ロック)
食塊の移送のための運動には、食塊を移送するための推進力と進行経路の拡張がある。
4回咀嚼してから嚥下運動をする。嚥下に伴い、喉頭とこれに連なる気管が前上方に挙上
するのに伴って食道入口部が開大するのが見られる。
食塊を移送するための推進力:舌の運動(舌背の狭窄運動、舌根部の後下方運動)
咽頭後壁の蠕動様運動(食塊を下に押し出す動き)
食道の蠕動(蠕動により食塊は食道の下方へと押し出され)
進行経路の拡張:舌根の前方運動(中咽頭部を拡大させる動き)
喉頭挙上(食道の入口部を拡大させる動き)
『口腔期(嚥下第一期)の過程』
<特徴>
狭義の嚥下が開始される段階で、咀嚼などにより形成された食塊を口腔から咽頭へ移送
するステップである。口腔期の途中で嚥下が起こることがあり、これを挿入嚥下という。
<過程>
①食塊の保持:舌の前後、舌縁部を挙上
②舌口蓋閉鎖:口蓋垂の下垂と舌後方の挙上により口腔ー咽頭間(口腔咽頭境)を閉鎖。
③舌の狭窄運動:舌筋(内舌筋・外舌筋)により舌尖部を口蓋皺襞部に押し当てる。この接
触点を支点として前方から後方に向かって順次舌背を口蓋へ押し当てて
いく(舌の狭窄運動)。食塊を後方へ移送する運動である。
④舌口蓋閉鎖が解除される。
⑤口蓋帆挙筋が収縮して軟口蓋が後上方へ挙上する。また上咽頭収縮筋が収縮して咽頭
後壁部が前方に移動する。
『咽頭期(嚥下第二期)の過程』
<特徴>
食塊を飲み下して咽頭から食道へ移送する段階であり、咽頭期ではものを飲み込む時の「ゴックン」という反射が起こる。意識的な反射惹起も可能だが、トリガー(咽頭壁)に食塊が達すると自然に嚥下反射が起こる。反射が起こる時は一時的に呼吸が停止し、
鼻咽腔が閉鎖して食物が鼻に抜けないようになっていて、咽頭収縮や舌骨・喉頭の挙上が起こって食道入口部が開大する。ここで嚥下が制御できないと誤嚥に繋がる。
<過程>
①舌根部の前方運動:食塊が入るスペースを作る。
②鼻咽腔閉鎖の完成:軟口蓋の挙上+上咽頭後壁の前方突出する。鼻咽腔は口腔期の後半から閉鎖する。
③中咽頭部に食塊が蓄積する。
④誘発刺激:食塊先端が口蓋垂下端を通過して中咽頭粘膜(の粘膜受容器)に接触して
中枢性に嚥下反射が誘発される。
⑤咽頭期の食塊への下方への推進力には舌根部の後下方移動と咽頭の蠕動様運動がある。
⑦喉頭の挙上に伴う喉頭蓋の反転(喉頭口閉鎖)、声門閉鎖、肺からの呼気圧で気道の
防御(誤嚥の防止)を行う。
⑧喉頭の挙上に伴う食道入口部開大と輪状咽頭筋(咽頭下部)の弛緩により食塊が食道に流入する。
食道期の過程について
<特徴>
重力や食道の蠕動により食塊が食道を経由して胃に達するまでの時期であり、食塊が
食道を通過するのは物性により異なるが液体では約3秒、固形物では約8秒とされてる。
蠕動は内圧の差をもたらし、圧差によって内容物を移送する。蠕動波は約40~160
㎝H₂Oの内圧である。蠕動は迷走神経を介して行われる。
<過程>
食道入口部が輪状咽頭筋の弛緩により開大して食道内に食塊が入り、蠕動により胃まで
輸送される(食道上部では速く、下部では遅い)。蠕動が胃に近づくと下部食道胃括約筋
が弛緩して食塊を通す。
逆流防止機構では食道の輪状筋の収縮と下部食道胃括約筋の収縮がある。
下部食道胃括約筋の収縮では、胃の入口は正常者だと内圧は20~50cmH₂Oであり、食道
への逆流がある人だと内圧は1~5cmH₂Oである。
嚥下の制御機構について
『嚥下中枢の特徴』
嚥下中枢は延髄に分布しており、一定の部位に局在するのではなく、孤束核と延髄網様体
にある介在ニューロン群からなる。
嚥下中枢の入力部(起動神経群)には、上位中枢からの随意性の嚥下を誘発させる信号と
口腔・咽頭領域から反射性嚥下を誘発させる末梢性の感覚信号が入力する。
末梢性の反射性嚥下を誘発する信号は食塊の硬さ、大きさ、性状、温度などの情報である。
三叉神経、舌咽神経または上喉頭神経(迷走神経)を介して起動神経群に入力される。
起動神経群が起動することで起動神経群に予め準備されている嚥下運動プログラムに
従って出力部の神経群(切り替え神経)が順次興奮する。その出力によって三叉神経
運動核、顔面神経核、舌下神経核、疑核、迷走神経背側核が興奮し、これらの脳神経中の
運動神経によって一連の連続した嚥下運動が遂行される。