【歯科医師勉強・生理学】口腔体性感覚(2)について
今回は生理学の口腔体性感覚について学んでいきました!
口腔領域における痛みがどのようなメカニズムで生じているのかを学ぶことができ、とても興味深かったです!
まだ以前の記事を読んでいない人はまずは以下のリンクからそちらを是非ご覧ください!
utti-memorandum.hatenablog.com
それでは早速見ていきましょう!
歯根膜について
(補足)歯根膜
歯と歯槽骨の間にあり、歯根膜線維(コラーゲン線維)と疎な結合組織からなる。
感覚受容器(ルフィニ小体と自由神経終末)がある。
歯に力をかけると歯の動揺(生理的動揺)はごくわずかである。
歯が抜けるとルフィニ小体は消失し、歯を再移植しても再生しない。(
ネズミではルフィニ小体は再生する。
『機械刺激に対する受容器からの反応』
受容器の存在部位により力に応答する方向があり、歯根膜線維にかかる
張力によって決まる。どの部位の線維に張力がかかるかによる。
(↑ルフィニ小体の応答の話)
また、歯根膜感覚の生理的特性では順応性と強度応答性がある。
順応性:順応性が神経によって異なる。
速順応型は、歯を押した瞬間のみ応答
遅順応型は、歯を押している間、持続的に応答
中間型
強度応答性;刺激強度に対する応答が異なり、強い力を加えると反応が緩やかになるタイプと、強い力でも反応が緩やかにならないタイプがある。
(参考)単一ユニット記録(細胞外記録法)
高いインピーダンスの金属微小電極などを単一の神経細胞に接近させて、その記録細胞に発生する活動電位を反映した細胞外の微弱な電位変化を測定することを単一ユニット記録という。細胞内記録とは異なってシナプス後電位など閾値下の膜電位変化は観察できない。
『歯根膜に存在する感覚受容器』
歯根膜は二重神経支配である。
・歯根膜(根尖部)→求心性線維(三叉神経)→三叉神経節(細胞体がある)→三叉神経感覚複合核→視床→大脳S1へ行く。
機能としては識別的機能と刺激部位の同定がある。
・歯根膜(根尖部)→求心性線維(三叉神経)→三叉神経中脳路核(細胞体がある)→三叉神経感覚複合核、三叉神経上核、三叉神経運動路核へ行く。
機能としては咀嚼筋の反射的制御がある。
(補足)三叉神経中脳路核
機能として、閉口筋の筋紡錘と歯根膜から感覚情報を受け取って三叉神経運動核へ投射する。咀嚼などの反射的調節を行う。歯ぎしりに関係すると考えられてる。
『口腔・顔面の痛み』
歯痛は人が経験する最大の痛みとされており、歯の痛みには歯髄痛と歯根膜痛がある。
歯髄痛:歯髄神経が興奮して起こる。歯髄痛にはしみる痛みと炎症性の痛みがあり、 しみる痛みは冷水(温度変化)や浸透圧刺激により起こる。これらは動水力学説により起こるとされている。象牙芽細胞にはTRPチャネルやPiezo1チャネルなどが発現しており象牙芽細胞が活性化するとATPが放出されて周りの神経線維の受容体に結合して反応を起こす。炎症性の痛みについては下記参照
動水力学説について
熱や浸透圧が加えられると、むき出しになっている象牙質の
象牙細管の中の組織液が熱を伝えたり、浸透圧の影響を受けると、
象牙芽細胞が感知して活動電位を発生してしみる感覚として伝わっていく。
象牙芽細胞にはTRPチャネルやPiezo1チャネルなどが発現しており、
活性化するとATPが放出されて周りの神経線維の受容体に結合して
反応を起こす。
(歯髄の炎症による歯痛)
歯髄炎症により血管透過性が亢進することで歯髄腔の内圧が亢進する。
その圧によってAδ、C線維の自由神経終末が興奮して痛みを起こす。
歯髄炎症により近傍の損傷された細胞(歯髄腔など)からH⁺、ATPが
放出され、自由神経終末のTRPV1、ASICs(酸感受性チャネル)、P2X₃
受容体が刺激されて陽イオンが流れて神経興奮性が亢進して痛みを起こす。
歯髄炎症により炎症性エディエーターが放出(肥満細胞だとセロトニン、
プロスタグランジン、ヒスタミン放出 マクロファージだとサイトカイン
神経成長因子、ブラジキニン放出)されることで自由神経終末が興奮して
痛みを起こす。
齲歯で細菌が感染してたら細菌からリポポリサッカライド(LPS)が放出されて
歯髄細胞に作用してサイトカインやサブスタンスP、CGRP放出することで炎症の悪化
が生じる。
また軸索反射が自由神経終末に伝播してサブスタンスPやCGRPやニューロキニンA
などが放出されることで免疫細胞が活性化や肥満細胞の機能的変化や血管拡張・機能的
亢進することで肥満細胞を刺激してPG、セロトニン、ヒスタミン放出、マクロファージ
増加などが起こり炎症を悪化させていく。
歯根膜痛:歯根膜の神経が興奮して起こる。歯根膜痛には、機械的刺激による圧迫痛と 炎症性の痛みがある。
圧迫痛は矯正治療中によくある痛みである。歯根膜は温度受容には関与しない。痛みは専ら機械刺激により起こる。このような反応を起こすのは自由神経終末である(侵害受容器があるから)。自由神経終末のAδ、C線維とも遅順応性応答を示し、持続的に興奮する。
炎症による痛みでは、炎症の原因として歯周病などにより歯根膜に炎症が波及して炎症性細胞から起炎性物質が出てきて、ずっと続くと自由神経終末が感作される。感作により機械刺激の刺激閾値が低下したり、自発発火の増加が起こる。これにより通常は痛みを起こさない弱い刺激に対しても鈍痛を生じるようになる。
圧迫痛や炎症による痛みではAδ、C線維が三叉神経脊髄路核尾側亜核に入り、反対側
毛帯路核を通り、視床後内腹側核へ行き、大脳皮質S1へ行く。
口腔粘膜・顔面皮膚の痛みについて
口腔粘膜と顔面の痛みの機序は同じであり、顔面皮膚は体幹皮膚と同様の機序である。
具体的には自由神経終末のAδ、C線維が三叉神経脊髄尾側亜核に入っていく。
口腔粘膜の場合ではおいしいお茶の温度は80℃(皮膚だとお風呂の適度は43℃)である。
侵害受容器に差はないが、これは熱刺激により体性自律神経反射が起こって唾液分泌が 亢進し、温度が下がることによる。唾液分泌が抑制された場合には粘膜損傷が起きやすく、痛みが誘発される。
顎関節の痛みについて
顎関節症は女性に多い。顎関節の痛みの線維はAδ、C線維であり、下顎頭にあるが中央部にほとんどなく周辺に多数分布する。顎関節の原因としては筋肉や関節自体だったりし、
顎関節は二頭関節であるため常に左右が同時に動くので機械刺激を頻繫に受ける。
関節頭に問題があると、片側の病変であっても運動が刺激となり痛みを引き起こす。これらの痛みは鈍い痛みであり長引く不快な痛みである。
この痛みの経路は、三叉神経節から三叉神経脊髄路尾側亜核、視床VPM、大脳S1となる。
治療としては痛み止めによる対症療法のみである。
舌の痛みについて
舌は味覚、触覚、温度覚、痛みを感じる。自由神経終末のAδ、C線維がある。
舌の痛みには粘膜の痛みと舌筋の痛みがあり、粘膜の痛みでは侵害受容線維が 図
粘膜下、味細胞周辺に分布しており痛みを感じる。
舌筋の痛みは深部痛であり鈍痛で、場所の同定は困難である。
顎口腔顔面の筋痛について
筋の痛みには筋肉内(Aδ、C線維)と筋膜(Aδ、C線維)がある。
強い機械刺激や熱刺激などの侵害刺激が、筋肉内や筋膜の自由神経終末の侵害受容器を 興奮させて痛みを起こしてくる。筋の痛みの特徴としては持続的な痛みである。
また筋緊張状態が続くと筋線維に小さな損傷が起こり、そこからATPやブラジキニンを 放出(もしくは損傷を受けてない筋線維からATPが放出)されて、自由神経終末のP2X 受容器に結合して痛みが生じる。
頭痛について
脳は実質痛みを感じない。硬膜に感覚神経(Aδ、C線維)が豊富に存在しており頭痛を 生じる。この感覚神経も自由神経終末であり、TRPV1、A1、M8が熱刺激や化学刺激で活性化される。
何らかの理由で三叉神経終末より神経ペプチド(CGRP、SP、ニューロキニンAなど)が放出されて(もしくはセロトニン枯渇により)血管が拡張し、血管に分布している痛覚感受性神経を刺激して頭痛を生じることもある。
通常は器質的頭痛(くも膜下出血、脳腫瘍、モヤモヤ病、脳血種など)や、機能的頭痛 (片頭痛、筋緊張性頭痛)などによる。
加齢と口腔の痛みについて
加齢により唾液量が減少すると、口腔乾燥が起こり口腔細菌が増加して歯肉炎が生じたり歯周病が早まったりして歯肉の痛みが生じるようになる。
また唾液量が減少することで傷が治りにくくなり、粘膜の損傷による痛みが生じる。
逆に加齢に伴って象牙質が増加することで歯髄腔が狭窄して隙間が減って、しみる痛みが 低下する