【歯科医師勉強・生理学】味覚・嗅覚について(2)
今回は以前の続きとして味覚・嗅覚についてお話していこうと思います。
まだ前回の内容をご覧になっていない方は先に下のリンクからそちらを是非ご覧ください!
utti-memorandum.hatenablog.com
では早速内容を見ていこうと思います!
PTC味盲について
ブロッコリーやキャベツに含まれる苦み物質をPTCという。
PTC味盲は同じ味覚閾値の測定範囲でも閾値は個人差で大きい。
なぜPTC味盲の方がいるかというと、味盲者のTAS2R38には遺伝子変異によるアミノ酸置換が三ヶ所あることで受容体のPTC感受性が低下するためである。つまり、PTCを苦いと感じ易いかどうかは遺伝的(先天的)に決まる。
味覚を変える物質について
「ミラクルフルーツ」
ミラクルフルーツの実を食べてからレモンなどの酸味物質を食べるとレモンを甘く感じさせられる。(トマト、ビール、ワインも甘くなる。)効果の持続時間は一時間以上である。
果実に含まれるミラクリンという糖タンパク質は酸味のある食べ物を摂取すると、水素イオンがミラクリンと結合して構造が変化して活性型になり、酸性条件下で舌の甘味受容体のT1R2とT1R3を刺激する。
「ギシネマ酸」
ギシネマシルベスタの葉に含まれる甘味抑制物質(トリテルペン誘導体)であり、舌にギシネマ酸を作用すると甘味受容体に会合してショ糖やサッカリンなどの甘味を抑制する。
味覚障害について
味覚障害の症状として味覚減退症、無味症、孤立性無未症、片側性無未症、味覚過敏、自発性異常味覚、錯味症、悪味症がある。
また味覚障害の原因には以下の7つがある。
味蕾への外的障害
炎症や火傷がある。
味物質の到達障害
舌苔が厚くなると違和感や味覚異常(味孔の閉鎖)を覚え、口臭に影響を与えるようになる。
また老化やシェーグレン症候群、細胞の新陳代謝に重要である亜鉛の欠乏によって、唾液を分泌する細胞も新生能力を失うことで唾液量が減少して味物質を溶解して浸透させることができる出来ず、 味物質の到達障害になる。口腔内の浄化作用も減少し、齲蝕や歯周炎が増加する。(亜鉛不足により炭酸水素イオンが十分に作られず唾液も酸性になる、シェーグレン症候群は外分泌腺が破壊される自己免疫疾患のこと。)
味細胞の内的障害
食事性:インスタント食などの偏食による亜鉛摂取量の不足
薬剤性:薬剤が亜鉛とキレートを形成して亜鉛の排泄を促進して二次的に亜鉛が不足する。
全身疾患:胃腸疾患などによる胃腸の亜鉛吸収力が低下して亜鉛不足。
「ビタミン欠乏症による味細胞の新陳代謝障害」
ビタミンA,B類の不足により味細胞に異常をきたす。
ビタミンB12不足により悪性貧血を起こしてハンター舌炎になり味覚障害を起こす。
「貧血」
中年以降の女性に多い鉄欠乏性貧血では、舌乳頭が萎縮して舌表面が平滑になり(舌炎)、ピリピリした灼熱感とともに味覚異常が発現することがある。
味覚伝導路障害
舌、咽頭、軟口蓋で感知された味覚刺激は舌(鼓索)神経、舌咽神経、および大錐体神経 から顔面神経を経て中枢に伝達されて認知される。(味覚伝導路)
この経路や中枢に疾患があると、感覚受容器に異常がなくても味覚障害が発生する。
(味覚伝導路障害) 代表的な疾患は脳腫瘍、聴覚腫瘍、中耳炎、顔面神経麻痺など
食物の味に関連する他の感覚の障害
「嗅覚障害(風味障害)」
呼吸性嗅覚障害:副鼻腔炎等による鼻腔における空気(匂い)の流れの阻害
末梢性嗅覚障害:嗅粘膜の炎症と変性、後頭部外傷による嗅神経切断
中枢性嗅覚障害:パーキンソン病やアルツハイマー病や脳腫瘍等による大脳や嗅球の障害
「三叉神経Ⅱ・Ⅲ枝(上・下顎神経)の障害」
舌神経は三叉神経の下顎神経の枝であり、舌に感覚神経を提供するので、舌触りや歯触りの異常を起こす。
心因性
「仮面うつ病」
うつ病でありながら通常の精神症状よりも身体症状が前面に出てくる症状のこと。
この身体症状として味覚障害がある。
老化
感覚機能の中で味覚は最も衰えにくい感覚の1つであるが、味覚障害は加齢とともに増加する傾向がある。高齢化に伴い服用する薬剤が増加して薬剤性味覚障害がある為とされる。
味覚の中枢伝導路について
味覚情報は鼓索神経、舌咽神経、上喉頭神経(迷走神経)、大錐体神経(顔面神経)は延髄の孤独核へ行き、視床に伝わって、大脳一次味覚野へ伝わる。
「各味覚神経の味質応答性の差」
舌咽神経:キニーネに対する感受性が特に高い
大錐体神経:ショ糖や酸によく反応する。
上喉頭神経(迷走神経):低閾値の機械刺激や純水刺激に反応(湿度のモニター)
鼓索神経:食塩、酸によく反応する。
「孤束核(一次中継核)の主な役割」
・味覚に基づく顔面表情変化(脳幹反射)や顎・舌運動の調節
・唾液、消化液(消化器系)、インスリン(内分泌系)の反射的分泌
・味覚情報をより上位の中枢へ送る。
大脳一次味覚野の情報や、嗅覚・一般体性感覚・視覚・内臓感覚の情報が二次味覚野(眼窩前頭野)へ伝わる。また大脳一次味覚野から扁桃体(快・不快の判断や情動行動発現を司る)や視床下部(摂食行動に関与)にも情報を送る。
摂食行動調節機序と味覚について
「情動に関係する部位」
扁桃体は、おいしい・まずいなどの情動発現に関与する領域である。
味覚入力を情動行動に結び付けるインターフェイスであり、また味覚性情動学習の獲得と保持を行う。
「報酬系(ドーパミン神経系)に関係する部位」
側坐核はドーパミンを受け取る中枢(神経核)の一つであり、やる気や頑張りを司る。
大脳皮質各部や扁桃体からの情報を受け取る役割があり、摂食意欲や情動行動発現に関係する。最終的には視床下部(主に摂食中枢のある外側野)へいくことで食行動をコントロールする。
味覚の中枢伝導路における味の神経情報処理の考え方について
「総神経線維パターン説」
複数の味覚神経線維間の興奮の程度のパターンとしての味の情報が送られているとする説である。各線維はいかなる味を伝える場合でも等しく情報伝達機能に参加する。
「占有回線説」
味覚神経線維の一本一本がどれか1つの基本味を伝えるとする説
味の学習について
「生まれつき(生得)の味覚行動」
味による唾液分泌や顔面表情の変化などの反射性応答があり、この反射性応答は生得的で脳幹に中枢がある反射である。
また初めて経験する食べ物を警戒し、匂いを嗅いでみたり、少し口にして味の安全性を確かめようとする行動を新奇恐怖という。
「後天的な味覚行動」
経験、学習、記憶などで獲得される。
安全学習:新奇恐怖で警戒してもそれが安全と分かることで躊躇なく食べれるようになる。
弁別学習:食経験が豊かになり、識別能、弁別能が獲得されて微妙な味わいが認知可能になること。
味覚嗜好学習:幸せな記憶とともに食べたものは好きな食べ物になる。
(食体験による食嗜好度の更新と上昇)
味覚嫌悪学習:未体験の食物は元から食べ慣れてる食物に対しても強い不快感が伴うと以後それを嫌悪するようになることがあり、一回の経験でも学習が成り立つ。